ARCHICAD BIM事例レポート
第3回「ARCHICAD BIMコンペ」(ベトナム)

第3回「ARCHICAD BIMコンペ」(ベトナム)表彰式の様子

ベトナムの学生300人が参加
日本のBIM業界に就職果たしたOBも

2016年6月24日、ベトナム・ホーチミン市建築大学で「ARCHICAD BIMコンペ2016」の最終選考会が開かれ、同大学のチーム「345」に最優秀賞が授与された。このコンペはグラフィソフトが2014年から毎年ベトナムで開催しているもので、第3回となった今回は約300人が参加した。過去のコンペに参加した学生のなかには、その後、日本企業に就職しBIM業界で活躍中の設計者もいる。

矢島 和美 氏

鹿島建設
建築管理本部次長
兼BIM推進室長
矢島 和美 氏

安井 好広 氏

鹿島建設
BIM推進室グループ長
安井 好広 氏

吉田 敬一郎  氏

沖縄デジタルビジョン
取締役営業本部長
吉田 敬一郎 氏

ヌー・ウィン 氏

沖縄デジタルビジョン
ヌー・ウィン さん
(Nhu Quynh)

ホァン・ソン 氏

沖縄デジタルビジョン
ホァン・ソン さん
(Hoang Son)

ベトナムを代表する2つの建築大学が参加

「最優秀賞はチーム『345』です」—6月24日、ベトナム・ホーチミン市建築大学で開催された「ARCHICAD BIMコンペ 2016」の最終選考会で司会者がこう発表すると、会場は歓声と拍手の渦に包まれた。2位はチーム「The 94s」、3位はチーム「BTT」と続いた。

今回の課題は、都市に存在する長屋や空き地、路地を有効利用するための建物を設計するというものだった。建物には周囲の環境との間に「バッファーゾーン」と呼ばれる干渉帯を設けることも求められた。

最終選考会に残った10チームは、実力派ぞろい。大学関係者やスポンサー企業で構成された審査員も最後まで悩んだようだった。 最優秀チーム「345」は、幹線道路と鉄道の間にはさまれた幅11m×長さ18.5mの敷地に建つ住宅のリフォームを提案した。住宅の周りに設置したバッファーゾーンによって熱や騒音を低減するだけでなく、自然換気や防犯にも活用し、さらにベトナムの伝統的な生活習慣を残せるようにするというのが、基本コンセプトだ。

まず建物の各側面や屋根に作用する太陽光を、環境シミュレーションソフトで解析し、太陽エネルギーを見える化した。この結果を基に、熱負荷となる不要な日射を減らすためのファサードを設計した。

日射のよる影響を検討するために、ARCHICADをRhinocerosとGrasshopperと連携し、太陽光に対して最適なファサード形状を検討した。

ファサードは縦に伸びる植物の生育場所としても活用する。外界からの騒音を減らし、空気を浄化するとともに日射が屋内に差し込むのを防ぐ役割をする。さらに住人は、有機野菜や果物まで収穫できるようになっている。

また外構部には、住宅を外界から守るための蛇かご壁を設置した。ARCHICADで内部の砕石部分をモデル化する際には、モルフツールを使って3Dモデルを作り、外面をストーン模様のマテリアルを張り付けた。外枠部分はカーテンウオールツールで使って作成し、網目はマテリアルで表現した。

審査員 審査員

チーム「345」が作成した「Close to open」の外観パース チーム「345」が作成した「Close to open」の外観パース

最終選考会での発表は英語で行われた。最優秀チーム「345」はARCHICADで作成した建物のBIMモデルを、iPadにインストールした「BIMx」でわかりやすく説明するとともに、建物の模型も使って設計のユニークさをPRした。

こうしたBIMの強みと模型の迫力を生かしたプレゼンにより、BIMポイント8.0、総合ポイント8.31を獲得し、見事、最優秀賞に輝いたのだ。

審査員からは「デザインコンセプトとプロセスがよくできている、開放する空間と閉じる空間が定義されスペースを有効に活用している」「デザインだけではなく、線路と道路にはさまれている敷地の問題をうまい方法で解決した」などの評価を受けた。

海上コンテナを利用したモジュラー・コンストラクションも

2位はチーム「The 94s」が獲得した。 「Fill in blank」という作品で、BIMポイント7.8、総合ポイント8.17だった。

審査員からは「人口密度の高い建物の間に空間を探しだすなど、アイデアがとてもよい」「チームには、アイデアを解決するための基礎力が十分ある。実現可能なプロジェクトだ」「コンセプトとデザインがよい。BIMxモデルもよくできている」と、高い評価を受けた。

3位のチーム「BTT」は、「Space between boxes」という作品を制作した。ホーチミン市で学生の住宅ニーズが増えているのを解決する手段として、使用済みの海上コンテナを使ったモジュラー・コンストラクションによる住居を提案したものだ。

この佐品はBIMポイント7.8、総合ポイント8.17を獲得した。審査員の評価は「効率的な空間のプランニングとコンテナ間の接続ができている」「素晴らしい、効率的なアイデア」「興味のあるコンセプト」と前向きなものが多かった半面、「騒音、換気、構造的な問題が未解決」という問題を指摘する声もあった。

最優秀賞のチーム「345」には、日本でのBIM実務の視察などに参加する旅行が副賞として贈られた。他の入賞チームのメンバーには、スポンサー企業でのインターンシップに参加できるチャンスが与えられた。

チーム「345」が作成した「Close to open」の模型 チーム「345」が作成した「Close to open」の模型

2位チーム「The 94s」が制作した「Fill in blank」という作品 2位チーム「The 94s」が制作した「Fill in blank」という作品

3位のチーム「BTT」の「Space between boxes」の外観パース 3位のチーム「BTT」の「Space between boxes」の外観パース

鹿島建設の協力を得てグラフィソフトジャパンがコンペ開催

このコンペは2014年に第1回が開催され、以後、毎年行われている。そのきっかけは、ARCHICADを活用する鹿島建設のBIM業務が急増したことだ。

鹿島建設は既にフィリピンとインドにBIMモデルの入力拠点を設けていたが、さらにベトナムにも拠点を設けたかった。しかしベトナムではARCHICADはあまり普及していなかった。BIMの活用はプレゼンテーションにとどまり、本来の設計業務へのBIM活用はほとんど行われていなかった。

そこでベトナムでの普及を図ろうと、鹿島とグラフィソフトジャパンが協力して大学生向けにARCHICADを使うイベントができないかと検討したのが、コンペ開催のきっかけだった。

鹿島 建築管理本部次長兼BIM推進室長の矢島和美氏は「グラフィソフトジャパン代表取締役社長のコバーチ・ベンツェ氏とホーチミン市内の大学を回ってコンペ開催への協力を説いて回りました。大学の先生方も、学生の就職にBIMが武器になることを知っていたので、全面的な協力を得ることができました」と語る。

その結果、2014年にホーチミン市建築大学の学生を対象とした第1回のBIMコンペを開催したのだ。

BIMコンペの開催を担当するグラフィソフトジャパンのBIMコンサルタント/文教担当、川井達朗氏は「初めは何人参加してくれるのかわからなかった。学期中は勉強で忙しいので、期末試験の後に開催することにした」と振り返る。

ホーチミン市民大学で行われた一次審査 ホーチミン市民大学で行われた一次審査

作業風景

300人の学生が参加した予選会

第3回を迎えた今年、BIMコンペは当時の心配を吹き飛ばすほどの盛況ぶりだ。参加対象はホーチミン市建築大学だけでなく、ハノイ建築大学の学生も加わった。参加したのはホーチミン市建築大学が約200人、ハノイ建築大学が約100人、合計300人以上が参加した。参加ルールは1チーム3人以内であることだ。

まず、4〜5月にかけて参加チームを募集し、一次審査の作品提出を学生たちに呼びかけた。課題は両大学の教職員が出し、各チームは手描き図面やパースなどを配置したA1サイズのパネルと模型を提出。そして教職員による一次選考が行われた。

一次選考に通過した20チームに対し両大学で1週間ずつのワークショップが行われた。最初の2日間で「ARCHICAD」基礎トレーニングを行い、続く3日間でARCHICADを使いながら二次審査に提出する作品制作を行うという実践的な内容だ。その次の1週間は、チームメンバーだけで作品を完成させていった。

「学生たちは、2次元CADや無料の3Dデザインソフトには慣れ親しんでいる。そのため、3Dモデリングの基本的なスキルがあるので、わずか2日間のARCHICAD教育を受けただけでも、その後は自力で使いこなしていった」と、基礎トレーニングの講習を担当した川井氏は語る。

この間、コンペ関連のイベントとして現地で活躍する建築家であるVo Trong Nghia氏、西澤俊理氏、YKK AP FACADEのChief Design ManagerのLee Kim Seng氏による「BIM Workshop」特別講演を行った。

コンペ参加学生は日本企業のBIM戦力に

このイベントの開催で欠かせないのはスポンサーの存在だ。今回はプラチナムスポンサーとして鹿島グループ(鹿島建設、沖縄デジタルビジョン、鹿島クレス)、ゴールドスポンサーとしてDoallTech、日建リース工業、YKK APファサード、アクトエンジニアリング、そして技術スポンサーとしてスタジオ ナオ、Atlas Industriesが協賛した。

最終発表会の前日には協賛企業の企業説明会も開いた。就職を控えた学生は、BIMを活用する各社の説明に、熱心に聞き入っていた。

2015年の第2回コンペからスポンサーとなり、今回のコンペで審査員を務めた沖縄デジタルビジョン取締役営業本部長の吉田敬一郎氏は「年々、作品のレベルが上がっているのを感じる。審査ではBIM活用の技術よりも、課題のテーマにきちんと向かい合っているかどうかを重視して採点した。学生らしい突拍子のない斬新なアイデアの作品も目立った」とコンペを振り返る。

同じくスポンサーで今回の審査員を務めた鹿島建設 建築管理本部 BIM推進室グループ長の安井好広氏は「デザインよりも実務的なBIMの使い方やコンセプトを中心に採点した。ARCHICAD上で構造、意匠、インテリアのレイヤーを分け、Solibri Model Checkerで干渉チェックを行うなど、短期間でBIMソフトの特性を理解し実務に近い運用を意識しているのには驚かされた」と語る。

過去の参加学生の中には、コンペがきっかけとなって日系企業に就職し、BIMを活用する設計者になった人もいる。

2014年の第1回コンペの参加者であるホァン・ソン(Hoang Son)さんと、ヌー・ウィン(Nhu Quynh)さんは、沖縄デジタルビジョンに就職し東京で働いている。

ヌーさんは「コンペに参加したことがきっかけでBIMやARCHICADとのつながりができ、現在の仕事に就くチャンスがもらえた」と振り返る。

また、ホァンさんは「コンペの賞品として7日間、日本を旅して人々や景色、文化、建築物に接することができたのは、とても素晴らしい贈り物だった。コンペに挑戦したことで大きな世界とビジョンが開けた」と語る。

上司である吉田氏は「単なるBIMオペレーターではなく、BIMプロジェクトの中でコラボレーションできる人材に育てたいと思っている。彼らにとって日本語は難しいが、BIMのスキルを磨きながら、当社の業務で戦力になりつつある」と言う。

このほか、BIMコンペの参加者には、鹿島建設のシンガポール法人であるカジマ・オーバーシーズ・アジアに5人、大阪市のクレスに1人就職を果たした学生もおり、それぞれBIMの第一線で活躍している。

ベトナムでのコンペは、日本企業にとって優秀なBIM人材獲得のチャンスでもある

ベトナムでのコンペは、日本企業にとって優秀なBIM人材獲得のチャンスでもある

「ベトナムの大学にARCHICADを根付かせたい」

既に、2017年のBIMコンペ開催に向けての準備が始まっている。鹿島建設の矢島氏は「ホーチミンには有力な工科大学が集中している。9月にベトナム政府と協議して、参加大学を増やす方向で計画を進めている」と語る。

「ベトナムでのBIM業務は増える一方だ。BIMのスキルを持った新卒者を発掘し、日本企業への採用につなげていきたい。ベトナムのBIM人材の採用に興味のある企業は、ぜひスポンサーとして参加してほしい」と矢島氏は呼びかけている。

また、コンペ主催者のグラフィソフトジャパン代表取締役社長のコバーチ・ベンツェ氏は「ベトナムの学生はBIMの知識を得ること、そして日本での就職、もしくは現地の日系企業での就職に大変熱心だ。大学からは、カリキュラムをより充実したものにするために、教員のBIMとARCHICADの知識の向上をサポートする講師を派遣するよう要請も受けている。私はこれからも、コンペティションのさらなる規模の拡大も含め、現地の大学にしっかりとしたARCHICADのユーザーベースをつくっていけるようサポートを続けたい」と抱負を語った。

第3回 ARCHICAD BIMコンペの結果
総合賞 チーム名
最優秀 345
2位 The 94s
3位 BTT
特別賞 チーム名
ベストBIMモデル賞 Mteam
ベストアイデア賞 Sumo
ベストレイアウト賞 BTT
ベストプレゼンテーション賞 The 94s